ウオーキングをすると気分が爽快になります。つまりウオーキングはからだだけでなくこころの健康にも役立つのです。ところがせっかくのウオーキングも、こころにひっかかる心配事があって、それが頭の中を堂々巡りしていると「どこを歩いてきたのか思い出せない」なんてことになってしまいます。対人関係や将来への不安、過去の後悔でこころが穏やかでない状態を、先人は「暴れまわる馬」と「騒ぎ立てる猿」に例えて意馬心猿といいました。
暴れ馬と騒ぐ猿に振り回されず、「今現在の私」だけに注意を向けることをマインドフルネスといいます。このマインドフルネスは瞑想や坐禅に似ていて、もともとメンタルの治療に使われていましが、現在では腰痛や胃腸障害、自律神経の治療にも応用されています。このマインドフルネスとウオーキングを組み合わせたのがマインドフルネス・ウオーキング。歩くと心が整うことは昔からよく知られており、仏教にも歩行禅というのがあります。
さて、マインドフルネス・ウオーキングをする時のコツですが、「こころを鎮めよう!集中しよう!」と力むとかえってよくありません。心の中に暴れ馬が出てきたら「あれ、暴れ馬が出てきちゃったな」とゆっくり感じて「でも、自分はここにいる」と、こころを現在に戻してウオーキングを続ける。過去と未来へのもやもやを断ち切り、現在の自分にだけに注意を向けていれば、道に迷ったり何かにつまずいたり、ぼおっとして赤信号を渡ってしまったりすることはありません。もっとも安全なウオーキングです。
「坐禅をするのは敷居が高いなあ」と思っている人でも、このウオーキングならとても手軽にできます。マインドフルネス・ウオーキングについては拙著「腰痛は歩いて治す からだを動かしたくなる整形外科」(講談社現代新書)で詳しく説明しました。ぜひあなたのウオーキングにも取り入れてみてください。
MGプレス 動いて健やかに33
2023年7月18日掲載