はじめまして。最初に自己紹介をさせてください。わたしは整形外科医として三十数年間、患者さんの腰痛や肩こり、膝などの関節痛や神経痛を治療してきました。からだを動かす骨、関節、筋肉、神経を「運動器」といい、高齢社会では、変形性関節症や脊椎症、脊柱管狭窄症、骨粗しょう症などの運動器疾患が激増します。
運動器疾患は痛みを伴い、進行すると歩行が困難になり寝たきりの原因にもなります。日常生活に制限なく介護が必要ない期間を健康寿命といい、健やかに生きるためには運動器の健康がとても重要。この健康寿命を延ばすのが整形外科医の役割です。私自身、病院勤務医時代には、数千例の関節や腰などの運動器の手術を行ってきました。
しかし決して手術だけが唯一の治療法ではありません。からだを動かす、まずは歩いてみる、といった簡単な取り組みで運動器の痛みはよくなるのです。私はこれらの臨床経験をまとめて一昨年、『腰痛は歩いて治す からだを動かしたく整形外科』という本を講談社現代新書から上梓しました。この本の中で書きましたが、痛みがあるといろいろ心配になり「あれもダメ、これもダメ」と考えがちです。また腰痛などがある時には、つい「してはいけないこと」を考えがちですが、そうではなく「今の私にもできること」を考えること。体調が今一つの時こそ気持ちを前向きにして、決めつけない、あせらない、あきらめないことが健やかに生きる決め手なのです。
ネットにはたくさんの情報があふれていますが、中には根拠のないまちがった情報もあります。そんな情報にふりまわされず、患者さん自身がよく考えて判断することが大切。「どんな運動がいいの?」、「痛み止めはこわいの?」、「痛みは一生治らないの?」そんな疑問について、これから読者の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
MGプレス 動いて健やかに1
2021年4月6日掲載