心に残る93歳の女性の患者さんのお話

整形外科全般

7月に出版した私の本「腰痛をこころで治す」の中に93歳の女性の患者さんのお話が出てきます。

私は先月開業する前、松本市から30kmほど離れたところにある病院に16年間勤めていました。私が病院に赴任した直後からこの患者さんを診させていただいていました。そのころ患者さんは78歳でした。79歳と85歳の時に、膝の痛みに対して人工膝関節の手術を行ないました。それ以後、膝の痛みはなくなりましたが、ここ数年は腰痛と、夜間に足がむずむずする『むずむず足症候群』で通院していました。

ふだんはとても元気な方で、93歳になる現在も畑仕事に精を出し、元気で真っ黒に日焼けしていました。
知り合った78歳の時に比べると、徐々に歩くのが遅くなってきましたが、杖一本で元気に診察室に入ってきます。そして診察を終えると帰り際に必ず私に向かってこう言ってくれます。

「今日は先生の顔を見たので、また元気になった。先生の顔を見ると本当に元気になる」

私は、この患者さんにいつも感謝していました。そして

「私こそ、月に一回お会いできるのを楽しみにしているんですよ」

と返していました。
医師と患者さんがお互いに尊敬と感謝の念を持つことがどれほど重要か、私はこの患者さんを診察するたびに感じていました。

開業後は病院で診ていた患者さんを診られなくなるのが私の一番の気がかりでした。
この患者さんは同い年のだんなさんと二人暮しです。
5月、私はこの病院で、この患者さんの最後の外来診療の時でした。診察を終えて私は言いました。

「申し訳ありませんが、これがこの病院での最後の診察です。もし心配なことがあればいつでも私のクリニックにいらしてください。」

と、私がお話しすると患者さんはにこにこしながら言いました。

「先生、私は年よりだから、遠くにはいけないよ。この年だから、たぶん、先生と会えるのはこれが最後だと思うけど、元気で頑張ってくださいよ」

私もにこにこしながら「ありがとう」と答えましたが、本当は泣きそうな気分でした。
今でもこころからこの患者さんに感謝しています。